岡野　顕子（Veterinary Career Lab SMILE）

前回のコラムでは、組織が取り組むメンタルヘルスマネジメントについてお話ししましたが、それと同時に従業員一人ひとりがメンタルヘルスケアに取り組むことも大切です。いくら組織が、メンタルヘスルスマネジメントに取り組んでいても、従業員が自分自身の管理に取り組む意識がなければ成果が出にくいものです。

この春、新社会人として働き始めた方、新入社員が入社してきて先輩として働く方、ご自身の転職により職場環境が変化した方など、何かしら生活環境が変わるのが4月ですね。 そして新しい環境に慣れて緊張が緩んでくるのが、5月、6月です。「集中力が続かない」「倦怠感を感じる」「疲れが取れない」といった症状が現れて、メンタルヘルス不調を訴える人が増えるのもこの時期です。一般的には、「五月病」ともいわれますね。特に動物病院では、4月から6月は予防シーズンということもあり、年間で最も忙しい時期です。仕事に追われ、自身の心の疲れにさえ気付けないことも多いのではないでしょうか。咳が出る、熱っぽいなどの体調不良には、誰もが気づきやすく、ちょっと体を休めようかなと思うことができますが、「心の疲労」にはなかなか気づきにくいものです。

今回は動物病院における課題である人材育成、一人ひとりの教育と指導について、現場での活用が可能な「オペラント行動」と「行動分析学」をもとにお話しします。前回は、愛玩動物看護師の国家資格化による変化から、組織に求められるチェンジマネジメントについて触れました。組織において、離職や人が育たない、院内の雰囲気が悪いなど、人材にまつわる悩みは尽きません。そもそも「組織」というものは人で構成されており、人間関係は有機的であり、コミュニケーションなどを通して育むものと言われています。組織を構成しているのが人である以上、人の言語や行動の積み重なりが組織を作り上げているといってもよいでしょう。

今回は、動物病院における課題として、愛玩動物看護師国家資格化による変化についてみていきましょう。第1回コラム『動物病院における課題〜人材育成の課題〜』では、VUCAの時代についてふれました。V (Volatility：変動性)、U (Uncertainty：不確実性)、C (Complexity：複雑性)、A (Ambiguity：曖昧性)と表現されるように、未来の予測が難しい時代です。このような中で、動物臨床業界では令和4年6月17日に愛玩動物看護師法が施行され、翌年には初めての愛玩動物看護師が誕生しました。愛玩動物看護師の国家資格化は、動物臨床業界において大きな変化の象徴であり、ペットが家族の一員として世の中に広く認知されたからだと言えます。

今回は、動物病院において課題の一つである『ハラスメント』についてお話します。前回は「小動物臨床業界における課題」と「ハーズバーグの二要因理論」についてお話をいたしました（動物病院における課題～人材育成の視点から～）。「動機付け要因」と「衛生要因」の関係は、対ではなく、お互いの ”足りない要素を補い合う” という関係性であり、「衛生要因」の不満を解消しつつ、同時に「動機付け要因」の達成や承認を満たすことが重要であるとお話しましたが、今回お話する『ハラスメント』は、「衛生要因」の不満を解消する部分にあたります。

初めまして、獣医師でキャリアコンサルタントの岡野顕子と申します。 この度、本サイトへ執筆させていただくにあたりまして、少し自己紹介をいたします。私は臨床獣医師として18年間、京都の動物病院に勤務しておりました。その間に副院長や院長職を経験し、人材育成や経営にも関わってきました。そのような経験の中で、動物病院の経営の難しさを実感しました。一番頭を悩ませたのは組織運営、従業員のモチベーションの維持や満足度、エンゲージメントでした。