SAC法律相談WEB版[第2回]猫への餌やりトラブル(規制と訴訟事例)

SAC法律相談WEB版[第2回]猫への餌やりトラブル(規制と訴訟事例)

著者について

渋谷 寛

渋谷 寛

略歴

平成9年 渋谷総合法律事務所創設
農林水産省内獣医事審議会元委員、環境省内中央環境審議会元委員(ペットフード安全法関係)、環境省中央環境審議会動物愛護部会動物愛護管理のあり方検討小委員会元委員(動物愛護管理法改正関係)
平成22年よりヤマザキ動物看護大学講師
平成27年より八王子市動物愛護推進協議会委員
平成30年3月より環境省内動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会委員(動物愛護管理法関係)、日本動物看護職協会監事

著 書
・「わかりやすい 獣医師・動物病院の法律相談」(代表編集・新日本法規)
・「ペットの判例ガイドブック」 (共著 民事法研究会)
・「ペットのトラブル相談 Q&A」(共著 民事法研究会)
・「ペットの法律相談」 共編著 (青林書院)
・「ねこの法律とお金」 監修 (廣済堂出版)  
・「ペット訴訟ハンドブック」(日本加除出版株式会社)

1.はじめに

道端で見つけた可愛らしい猫に餌を与えたくなる衝動に駆られた経験を持つ人もいることでしょう。近寄ってくる猫が可愛く、私が餌をあげなかったらこの猫は飢え死にしてしまうのではないかと思う人もいるでしょう。ところが、餌を与えられた猫が、繁殖を繰り返すなどして多数に増えたり、それらの猫の鳴声、糞尿、悪臭などにより近隣住民に被害をもたらすことがあります。餌を与えている人に対して、責任を問おうとすると、私が飼っている猫ではないから、責任を取る必要はないと拒否されてしまう。室内飼いされていない猫による損害を被った人の救済を、どのように行うかという問題も生じます。そこで、無責任に猫に餌を与える人に対する規制について、法令と裁判例を概観してみます。

2.動物愛護管理法の改正

この様な背景を踏まえて、令和元年に動物愛護管理法の一部が改正されました。都道府県知事は、動物の飼養により、騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によって周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができる旨の規定があります(同法第25条)。改正前は、「多数の動物の飼養又は保管に起因した」場合という 条件が付いていました。これでは、多数とまではいえない場合、飼養していると明確に判断できない場合には、指導・助言ができませんでした。たとえば、一匹の猫に飼養とはいえない程度の餌やりから被害が生じている場合には、この規制は働きませんでした。

今回の改正では、「動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に起因した」と多数でなくても適用があるように、飼養とまではいえない給餌若しくは給水に起因する場合も含むことに変更されました。この改正により、一匹の猫に飼養とはいえない程度の餌やりから周辺の生活環境が損なわれている事態が生じている場合にも、指導・助言ができるようになりました。

この助言・指導に従わない場合には、勧告、更に、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます。命令に従わない場合は、50万円以下の罰金が科せられることになります(同法第46条の2)。

3.地域ごとに定められる条例

不適切な餌やりに特化した条例がいくつかあります。京都市では、「適正な動物の取扱いに関し必要な事項を定めることにより、 不適正な動物の取扱いに起因して人に迷惑を及ぼすことを防止し、もって生活環境の保全を図るとともに,、人と動物の共生する社会の実現に資することを目的」として、「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」を定めています。同条例では、「市民等は、所有者等のない動物に対して給餌を行うときは、適切な方法により行うこととし、周辺の住民の生活環境に悪影響を及ぼすような給餌を行ってはならない。」と定めています(同条例第9条)。また、「市長は、周辺の住民の生活環境に支障が生じていると認めるときは、当該支障を生じさせている者に対し、必要な措置を採ることを勧告すること、その勧告に係る措置を採ることを命じることができる。」と定めています(同条例第10条)。この命令に従わない者に対しては、5万円以下の過料という罰則も定められています(同条例第14条)。
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4.裁判例

(1)東京地裁立川支部平成22年 5月13日判決

都内のタウンハウスの一部区分所有者であるAが、複数の猫に継続的に餌やりを行ったため、糞尿等による被害を被ったとして、同建物の区分所有者であるBらが、本件建物の敷地等での猫への餌やりの差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案があります。

裁判所は、屋外での餌やり行為は、管理組合の規定する動物飼育禁止条項又は迷惑行為禁止条項に違反する上、本件屋外飼育等は、Bらの人格権を侵害するものであったとして、本件敷地等における猫への餌やり行為の差止めを認めるとともに、Aの同行為につき受忍限度を超える違法なものと認めて、損害賠償請求を認めました。Aの屋外での4匹の猫への餌やりは、段ボール箱等の提供を伴って住みかを提供する飼育の域に達していると認定しました。そして、AはBら(17人)に対し、3万6000円から15万6000円を支払うという内容の判決を言い渡しました。

(2)福岡地方裁判所平成27年9月17日判決

AがA宅又はその庭において野良猫に寝床や餌を用意するなどの飼育ないし餌付けを行って、隣接するB宅を含む周辺に猫を居着かせ、行政機関の指導にも従わずに飼育ないし餌付けを継続し、B宅の庭を猫の糞尿等により汚損した事案があります。

裁判所は、Aは、本件野良猫に対する餌やりを継続していたと認め、また、B宅の庭においては実際に糞尿被害が発生しており、本件の証拠上、本件野良猫以外にこの糞尿被害を生じさせた動物等が存在したなどの事情は全く窺われないところ、この糞尿被害は本件野良猫によって発生したと認められるのであって、Aの行為は、Bその他の近隣住民への配慮を怠り、本件野良猫の糞尿等により原告の権利利益を侵害した不法行為であると判断しました。そして、AはBに対し、損害賠償として、ネット設置費用8100円、精神的苦痛による慰謝料50万円、弁護士費用5万円の合計55万8100円の支払うという内容の判決を言い渡しました。


猫に餌やお水を与えているだけ、飼っているのではないと思っていても、その餌やり行為が飼育の域に達していると認定されることがあります。餌やりを継続したり、飼育していると認定される場合は、猫に餌を与えていた者に法的責任が生じることになります。

5.まとめ

飼養とまでは明確に判断できない場合でも、給餌・給水に起因して周辺住民に迷惑をかけた場合には、法律や条例違反になることがあり、場合によっては罰則の適用もあり得ます。また、裁判において、単なる餌やりではなく、継続した餌やり、または、飼育の域に達していると認定されると、不法行為としての損害賠償義務が生じることになります。