渋谷 寛（渋谷総合法律事務所）

獣医療法施行規則が改正され、獣医療に関する広告制限が、令和6年4月1日から変わりました。 獣医療広告への基本的な考え方は引き続き堅持されつつも、広告を行う獣医師への正確かつ適切な情報提供の努力義務を課した上で、客観性や正確性を確保し得る場合には、獣医師の専門性や獣医療サービスなどを広告可能事項として省令で認めることとなりました。

インターネット上に「〇〇動物病院では、手術に失敗することが多く、何匹もの動物が殺されている。」などの名誉を棄損する書き込みがなされた場合、どのように処法したらよいか。このまま放置すると、業務が妨害され、お客の減少につながりかねません。削除要求をして削除をしてもらえたとしても、繰り返して書き込まれると終息に向かいません。書き込んだ発信者を特定して、民事上、刑事上の責任を追及して行くことが考えられます。ここでは、一連の手続きについて簡単に触れてみます。

インターネット上のホームページやSNSを活用して、動物病院を広く知らしめることはもはや常識といっても過言ではなさそうです。動物病院の住所・地図・電話番号等の連絡先・獣医師や愛玩動物看護師の数・開業時間など適切で有益な情報を載せることが望ましいです。ところが、どの様な内容を記載しても良いというわけではありません、法的な観点から様々な規制が及んでいます。

まずは同意書と誓約書の違いを考えてみます。どちらも同じような意味ですが、文字どおり同意書は一定の事項について同意する書面を意味し、誓約書は一定の事項について誓約する書面を意味します。入院や手術については、記載された内容を理解して同意するという意味で同意書というタイトルを使いことが多いと思います。飼い主が、獣医師に対して、治療方針について何等の意義を述べません、退院後病状に変化が起きたらすぐに動物病院へ連れ戻しますなどと誓う場合は、誓約書というタイトルの方がふさわしいでしょう。

獣医療過誤とは、獣医師として負うべき善管注意義務に違反（過失）して損害が生じたことを意味すると考えることができ、被害者は主に動物の飼い主となります。これに対して、獣医療事故とは、動物病院内で生じる、あらゆる事故を意味し、被害者は飼い主だけでなく、従業員である獣医師、愛玩動物看護師その他の人を含むことになります。例えば、動物病院内で、毒物の入った瓶を落として床に散乱してしまった事故は、獣医療事故にあたります。電子カルテを採用している動物病院で、パソコンが壊れてしまい、飼い主や患動物に関するデータが消えてしまった場合も獣医療事故に該当します。これらの獣医医療事故が生じてしまったときは、損害ができるだけ少なくなるよう対応し、損害の復旧に努めることが必要になります。　獣医療過誤は、獣医療事故の一部に属します。診療行為において、注意義務違反（過失）があり、ペットの死亡などの損害が生じた場合には、損害賠償の問題に発展します。

動物病院では、飼い主さんに対するサービスをできる限りしてあげたいと考えることでしょう。しかし、法律で許されていないサービスをしてしまうと違法となり、刑事罰や行政罰の対象になってしまうこともあります。診療にあたっての処方なのか、そうではない販売にあたるのか、販売にあたる場合は必要な許可を得ているのか、動物用管理医療機器を横流しして良いのか、診察せずに処方して良いのか 等を慎重に判断し、法に触れないようにすることが重要と考えられます。今回は、動物病院における販売に関する許可などの規制について概観してみたいと思います。

街中で見かけることのある盲導犬の存在はご存じでしょう。それでは、聴導犬、介助犬の存在、身体障害者補助犬法という法律の存在はご存じでしょうか。今回は、獣医師との関係の深い、身体障害者補助犬法（以下「本法」とする。）について説明します。本法は、平成14年に制定されています。 　本法の第1条の目的には、「この法律は、身体障害者補助犬を訓練する事業を行う者及び身体障害者補助犬を使用する身体障害者の義務等を定めるとともに、身体障害者が国等が管理する施設、公共交通機関等を利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することができるようにするための措置を講ずること等により、身体障害者補助犬の育成及びこれを使用する身体障害者の施設等の利用の円滑化を図り、もって身体障害者の自立及び社会参加の促進に寄与することを目的とする。」と定められています。身体障害者が、補助犬とともに社会に進出する場面で、できるだけ不都合がないようにとの配慮がなされているのです。

動物は法律上「物」か？と問われたら、そうですという答えにならざるを得ないでしょう。命のある動物ですが、法律上は「物」に含まれてしまうのです。法律の世界では、権利を想定し、その権利の主体と権利の客体に分けて構成しています。権利の主体となれるのは人です（もっとも、法律上の概念である株式会社等の法人も権利の主体になれます）。人以外の物質等は権利の客体になると考えられています。権利の客体は、動かない不動産と動かせる動産に分けられます。動物は、動かせますから「動産」に該当することになります。

ペットホテルやトリミングのサービスを行っている動物病院も多いことでしょう。今回は、これらのサービスについての法的な義務と、裁判例にみられる過失（注意義務違反）の内容について触れてみようと思います。

道端で見つけた可愛らしい猫に餌を与えたくなる衝動に駆られた経験を持つ人もいることでしょう。近寄ってくる猫が可愛く、私が餌をあげなかったらこの猫は飢え死にしてしまうのではないかと思う人もいるでしょう。ところが、餌を与えられた猫が、繁殖を繰り返すなどして多数に増えたり、それらの猫の鳴声、糞尿、悪臭などにより近隣住民に被害をもたらすことがあります。餌を与えている人に対して、責任を問おうとすると、私が飼っている猫ではないから、責任を取る必要はないと拒否されてしまう。室内飼いされていない猫による損害を被った人の救済を、どのように行うかという問題も生じます。そこで、無責任に猫に餌を与える人に対する規制について、法令と裁判例を概観してみます。