愛玩動物看護師が輝く職場 [第1回]鹿児島大学共同獣医学部附属動物病院

愛玩動物看護師が輝く職場 [第1回]鹿児島大学共同獣医学部附属動物病院

著者について

古市 汐美(鹿児島大学)

古市 汐美(鹿児島大学)

略歴

鹿児島大学共同獣医学部附属動物病院
愛玩動物看護師

2013年 原田学園鹿児島動物専門学校を卒業後鹿児島大学動物病院にて勤務
2023年 愛玩動物看護師の国家資格を取得し現在に至る

はじめに

鹿児島大学共同獣医学部附属動物病院には、13名の愛玩動物看護師(VN)と1名の動物看護助手が勤務しており、外来や入院している動物の看護や診療の補助に日々取り組んでいます。10年前までは当院に勤務している動物看護助手は2~4名でしたが、業務の工夫や働きやすい環境づくりに取り組むことで現在の人数まで増員することができました。VNの業務は多岐にわたります。今回、ヒューマンエラーが起こらないために工夫していることやVNの業務内容について紹介します。また、当院では新人教育にも力を入れており、新規採用のスタッフにより良い指導ができるように毎年教育内容の改善を図っています。こちらについても紹介します。

勤務体制と1日の流れ

VNの勤務はシフト制となっています。日勤(7時45分~16時30分)準夜勤(12時15分~21時)夜勤(21時~7時45分)の3交代制になっています。日勤のVNはさらに内科と外科に分担されています。内科VNは3人~5人体制で、シフトの関係でほぼ毎日人数が変わります。外科VNは当番制で3人が担当し、手術にも参加しています。こちらは1週間交代です。このように、VN全員が各勤務時間に交代で入るようにしており、外科当番もシフトと同じタイミングで決まります。
次に日勤VNの1日を紹介します。出勤したら、内科のVNはその日の診察予約の状況をみて必要そうな検査に入る担当者を決めます。また、この時間に夜勤VNから入院動物の状態などについて申し送りを行います。申し送りが終わったら、朝の入院動物の処置を開始します。同じ時間に病院全体でのカンファレンスも行われますので、1名はカンファレンスに参加してそこで得た情報を他のVNへ共有します。入院動物の処置の後は、内科VNは外来の診療が始まるので必要に応じて補助に入り、外科VNは手術補助に入ります。また、入院管理の時間以外にも入院動物の投薬や給餌がある際は、スタッフの目に付くところにボード(図1)を設置してVNと獣医師で共有することで投薬や給餌のやり忘れがないようにしています。午前の診療、午後の診療が終わったら夕方の入院動物の処置をして1日が終了します。
準夜勤のVNは、午後からの診療と夕方の入院動物の処置を行い、夜間の処置などがあれば申し送りノートを用いて日勤VNから引き継ぎます。19時から始まる夜間診療では診察の補助や受付業務を行います。
夜勤のVNは出勤したら申し送りノートを見ながら入院動物の状況を確認し、入院動物のシーツ交換や投薬などを行います。準夜勤のVNから、申し送りノートでは分からなかったことや新しく追加された業務などの確認をします。そのまま夜間診療の業務を引き継ぎ、随時入院動物の看護を行います。朝になり、日勤のVNが出勤したら、夜間診療で新しく入院した動物や入院中の動物の状態について引継ぎを行い1日が終了します。
図1

図1

業務内容の工夫(内科;入院動物の管理、消耗品の管理について)

内科VNは主に図2の業務を行います。当院では入院動物ごとに担当のVNをつけていません。いずれは各入院動物に担当のVNがつくようにしたいと考えていますが、現段階では人員不足などもありVN全員ですべての入院動物を看護しています。しかし、入院の処置を行うスタッフが毎日変わることもあるのでヒヤリハットやアクシデントが起こる可能性も高くなります。そこで、どのスタッフが入院記録をみても入院動物の状態が明確に分かるように工夫しています。まずは排せつ物の性状です。例えば、入院動物が濃い色の尿をしたときに入院記録に「濃い黄色」と記載してしまうと、スタッフの間で「濃い黄色」に対して認識の齟齬が生じてしまい動物の異常に気付くのが遅れてしまう恐れがあります。そのようなことを防ぐために、入院記録に排せつの有無を記載するときはある数字を一緒に記入するようにしています。尿の色のパネル(図3)と便の性状のパネルを各入院室に掲示し、入院動物が排便や排尿をしたら、当てはまる数字を入院記録に記入してスタッフ全員で共通認識を持つようにしています。また、食餌の摂取率も数字で記録するようにしています。完食を100%とし、どれくらい食べたかをパーセンテージで記載することで誰が見ても簡単に食欲を確認することができます。また、入院の処置の際は術創のチェックを行いますが、こちらもどのスタッフが評価しても平等にできるようにしています。図4の表を使用して術創に異常がないかを確認し何かあったらすぐ獣医師に報告できるようにしています。また、入院動物の中にはケージから飛び出そうとする子や目が見えていない子など、ケージの下段で管理をしたほうが安全な子、ケージレストで散歩に出せない子、手術などで絶食絶水をしなければならない子など、管理に注意が必要な動物もいます。そのような場合も、それぞれの注意事項を記載したカード(図5)をケージに掲示することで、スタッフ全員が同じように対応することが可能です。
次に消耗品の管理方法について紹介します。工夫していることは2つあります。1つ目は管理体制です。当院は3階建てで消耗品も各階に存在しています。診察や検査で使用するもの、薬剤、フード、手術器材などたくさんの消耗品があります。VNの業務内容にはこの消耗品の在庫管理も含まれています。基本的にVN全員が場所や大体の在庫数を把握するようにはしていますが、エリアごとに担当者を決めて期限切れや在庫切れが出ないように管理しています。以前は、担当を決めずに全員ですべての在庫を管理していました。担当を決めずに行っていた際は、管理が人任せになり期限切れや在庫切れを招いてしまいました。そこで、担当者を決めることでこまめに在庫をチェックするようになり、在庫が減っていたり期限が近いものはいち早く気付けるようになりました。VN全員が必ずどこかのエリアに割り振られており、各エリアを3~4名で担当してもらっています。消耗品の管理についてもう一つ工夫していることは出庫時の連絡方法です。在庫や期限のチェック、入庫はVNだけで行えることですが、出庫はどうしてもVN以外のスタッフも関わってきます。そこで、消耗品名が書いてある紙を消耗品とセットにしておき、持ち出した場合は紙を決められているボックスに入れてもらうようにしています。紙とセットにできないものは、消耗品を開けた際に蓋になる部分を完全に切り取ってボックスに入れてもらうようにお願いしています。そうすることで実は箱の中身が空だったということも防げますし、蓋の部分には商品名や規格が書いていることが多いので、VNはボックスを見るだけでその日の出庫状況を確認し、在庫をチェックすることができます。
図2

図2

図3

図3

図4、図5

図4、図5

業務内容の工夫(外科;手術準備について)

外科VNは主に図6の業務を行っています。手術準備では麻酔器や手術台、剃毛、術前消毒の準備などがありますが手術器具の準備も外科VNが行います。手術器具が書いてある一覧表(図7)を軟部外科と整形外科でそれぞれ作成し、獣医師には手術前日までに使用する予定の器具にチェックを入れてもらうようにしています。VNは手術の前日に記入してもらった一覧表を見ながら滅菌状態や滅菌期限に問題はないか、器具の破損はないかを確認して器具の準備を行います。一覧表があることで準備もスムーズに行えますし同じ器具が重複していた際は手術の前日までに獣医師に相談することができます。また、当院では手術前日に術前カンファレンスを行っています。カンファレンスでは、獣医師から手術動物の病歴や現在の病状、検査結果などについて説明があり、予定している術式の確認などを手術に関わるスタッフ全員で共有しています。そうすることで手術のイメージが湧くので器具の準備もしやすくなりますし、手術中も進行状況が分かるので業務もスムーズに行うことができます。VNは、人員が足りない時は助手に入ることもありますが、基本的に外回りと麻酔管理の補助として手術に参加します。手術が終わったら、動物の術後の投薬や管理方法を獣医師に確認し、内科VNへ引き継ぎます。手術で使用した器具はメンテナンスをして滅菌を行います。
図6

図6

図7

図7

業務内容(夜間診療)

日中の診療では受付の方がいるのでVNが電話対応や受付を行うことはありませんが、夜間診療ではVNがその2つの業務を行っています。クライアントには夜間診療を受診する前に一度電話で予約をとっていただくようお願いをしていますが、中には心配のあまり慌てている様子でお電話をされるクライアントもいます。肝心な情報を聞き忘れたり漏らしたりしないように夜間診療では電話専用の問診表を作成し、どのVNもその問診表に沿ってクライアントからお話を伺うようにしています。また、電話を受けて受診が必要だと獣医師が判断した場合はその時点でトリアージをつけるようにしており、院内のスタッフの目につくところに設置してあるボードに記入しています。ボードには来院予定時間、クライアント名、問診内容、トリアージが記入できるようになっていて、来院時に再度動物の状態を確認し、必要があればトリアージの変更を行います。また、電話の受けた時点でだいたいの病状が予測できる場合はあらかじめVNが処置の準備を行っています。

新人教育の導入とプリセプター制度について

当院では6年前から先輩VNが新人VNに対してマンツーマンで指導を行うプリセプター制度を導入しています。指導は1週間交代で先輩VN全員が入るようにしているので、約3ヶ月間は先輩VNと一緒にすべての業務を行ってもらっています。プリセプター制度を導入した目的は2つあります。1つ目は業務内容や看護技術の指導の他に、仕事に対する不安や悩みを受け止めて精神的な面でもサポートできるということです。2つ目の目的はひとりひとりのスタッフと密にコミュニケーションがとれるので、少しでも早く病院に慣れるようにサポートをすることができるためです。プリセプター制度は業務内容や看護技術を指導することだけでなく、新人VNの精神面のケアもできるように導入しました。最初のうちは慣れない業務でストレスを抱えることもあれば、ミスをして落ち込むこともたくさんあると思います。そんなときに一番近くで見ている先輩VNが気づき、悩みを聞いたり助言をしたりなど精神面でのフォローができれば新人VNは少しでも前向きに業務に励めるのでは、と考えました。また、プリセプターには全員に入ってもらうので、プリセプターが終わる3か月後には先輩VN全員と、ある程度の関係性は築けていると思います。そうすると、プレセプターが終了したあとでも先輩と他愛もない話ができたり、わからないことは気軽に質問できる環境ができているのではないかと考えています。では、プリセプター制度ではどのように指導・教育を行っているのかをご紹介します。当院では、VNの主な業務内容をまとめた一覧表(図8)を作成し、その表を用いて指導を行っています。一覧表には100近くの業務が書いてありますが、1つ1つ色分けをして指導時期を明確に分けています。4月にはオレンジ色とピンク色の業務、5月には緑色の業務、6月には青色の業務、白色はあまりすることがない検査などで予約が入ったら率先して入ってもらうようお願いしている業務です。指導時期を明確に分けることで新人VNが複数名いたとしても、指導時期や内容にあまり偏りが出ないようにしています。また、この業務一覧表は毎年更新するようにしており、前年の新人VNに、増やしてほしい項目や改善した方がいい点などを聞いてその都度取り入れています。毎年たくさんの意見をくれるので徐々により良い業務一覧表や新人指導案ができてきていると考えています。プリセプター指導が終わったら新人VNはひとり立ちしますが、その後も麻酔や鎮静をかけての検査や処置は先輩VNがフォローしながら入るようにしています。このサポートは新人VNがその検査の補助に自信をもって入れるようになるまで続けていきますが、中には普段あまりすることのない検査や処置もあるので、そのような場合は勤務年数に関係なく、自身のないVNは他のVNのサポートのもと入るようにしています。そうすることで日々あまり取り組まない業務や分からない業務はそのままにせず積極的に相談できる雰囲気がVNの中でできており私も安心して業務を任せることができます。
図8

図8

おわりに

入院動物に担当VNをつけることもそうですが、私たちにはまだまだたくさんの課題があります。愛玩動物看護師が国家資格になり業務内容が増えたことで責任も以前より重くなりました。その中で、獣医師とクライアントから信頼され、動物にとってより安全な看護ができるように努力を続けていかなければならないと感じています。