水谷 哲也（東京農工大学）

2025年6月、日本国内においてSFTSウイルスに感染した獣医師が亡くなるという深刻な事例が報告されました。亡くなられた獣医師は、SFTSウイルスに感染した疑いのある猫の診療に携わっており、診療行為を通じて感染した可能性が高いとみられています。

新型コロナウイルスは猫科の動物に感染しやすいことがわかっています。飼い猫はもちろんのこと、動物園のトラやユキヒョウ、ミンクなどが次々と感染していきました。このように猫はヒトからのウイルス感染を受けることがあります。また、飼い猫が家から出て野生動物などと直接的に間接的に接するときにウイルスに感染することもあります。猫は犬に比べると感染リスクの高い動物といえるでしょう。このような背景から保護猫のウイルス感染を網羅的に調査する研究が行われています。そして、新しいウイルスが次々と発見されています。

新型コロナウイルス感染症が中国の武漢で発生してから5年が経ちました。新型コロナウイルス感染症は歴史に残るパンデミックのひとつになると思います。日本では2020年の春から2023年5月の感染症5類移行までの3年間が本格的なパンデミックの時期といえます。いまだ新型コロナウイルス感染症は無くなっていませんが、ニュースや話題になることは珍しくなりました。かつてはほとんどの国民が毎日「コロナ」のことを考えていたといっても過言ではありませんでした。

このコラムでは、致死率が高く有効なワクチンも治療薬のなかった猫伝染性腹膜炎（FIP）の最近の治療法を解説してきました。これまでを復習してみましょう。4回目はモルヌピラビル、5回目はGS-441524（レムデシビル）の抗ウイルス効果のメカニズムを解説しました。6回目は臨床におけるモルヌピラビルの投与方法について、ヒトの場合と比較しながら考察しました。今回はGS-441524（レムデシビル）の投与方法についての記事です。

このコラムの4回目と5回目は猫伝染性腹膜炎（FIP）の治療薬として使われているモルヌピラビルとGS-441524（レムデシビル）の抗ウイルス効果のメカニズムについて解説しました。6回目はモルヌピラビルの使用方法、とくに投与期間に焦点をあてることにします。その前に、モルヌピラビルとGS-441524（レムデシビル）のまとめをご覧ください。1分間で読めます。

さて、今回はGS-441524について解説していきます。時間のない方は最後のページの「まとめ」を先に読んでください。モルヌピラビルと同じように10分間で理解できるような解説につとめます。GS-441524をFIPの治療に使う動物病院が増えてきているのではないでしょうか。GS-441524を理解するためにはレムデシビルから解説していく必要があります。

「モルヌピラビルって、FIP（猫伝染性腹膜炎）に効くよね」とか「次の研究会でモルヌピラビルの発表があるみたい」など、最近モルヌピラビルに関する話題が多くなってきました。モルヌピラビルだけではなく、FIPの治療にはGS-441524やムチアン、レムデシビルなどの抗ウイルス薬についても耳にするようになりました。 今回はモルヌピラビルの薬理学のお話です。薬理学といっても難しい話ではありません。この記事を10分読めば、モルヌピラビルが体内でどのようにFIPウイルスと闘っているのかを理解できるようになっています。それでは、モルヌピラビルの作用機序の超簡単な解説をお読みください。

前回は「動物病院のスタッフを守るために必要なSFTS（重症熱性血小板減少症候群）の知識（基礎編）」をお送りしました。SFTSの日本における犬猫、ヒトの感染状況、SFTSウイルスの検査、動物病院のスタッフへの感染リスクなどについて解説いたしました。特に、2018年から2023年7月末までに11名の動物病院のスタッフ（獣医療従事者）のSFTS届出事例があり、これらの事例のほとんどはSFTSを発症した犬猫から感染したと考えられているということは、非常に重要であることを強調しました。今回はSFTS疑いの犬や猫が来院し検査の結果陽性であった場合に、具体的にどのような対応を取るべきかについて解説いたします。また、治療薬やワクチンは開発されているのか、などについても言及します。

今回は、重症熱性血小板減少症候群（SFTS）の現在の状況を一問一答の形式で読んでいただきながら、SFTSの基礎知識を皆様に得ていただくのが目的です。獣医師はもちろん、動物病院のスタッフをSFTSから守るためには、普段の診療においてどのようなことを心がけておくべきか、どのような対策が必要なのかを中心に解説していきます。

これまで「臨床獣医師が押さえておくべき新型コロナウイルス」と題して、文字通り新型コロナウイルス感染症の犬や猫への感染を中心にお届けしてきましたが、今回からは広く犬や猫へ感染する感染症のトピックスをご紹介していきます。とはいえ、この原稿を執筆している2023年7月中下旬の日本は第９波に突入する可能性を残しています。もし新型コロナウイルスが人で再び流行した場合には、犬や猫への感染状況、動物病院はどのように対応すべきかについても執筆する予定です。さて、「臨床獣医師が押さえておくべき感染症」の第1回目は『猫のヘパドナウイルス感染症』について解説していきます。このウイルスは未知のウイルスだったのか？　猫にどんな症状をもたらすのか？　検査や治療は？　動物病院ではどのように対応すべきか？などを現時点の知見に基づいて解説します。